2013/11/15

セーヌ左岸の恋



「ドキュ・ドラマ」。現実をドキュメントしながら虚実ないまぜになったドラマを構築したエルスケンの写真作品は、そう呼ばれたりもする。このドキュ・ドラマの白眉は、やはりデビュー作「セーヌ左岸の恋」にあるだろう。学生の頃に書店でみかけて、すぐに購入した。私がはじめて買った写真集で、飽きずに何度も眺めたものだ。

その冒頭には、アムステルダムからパリを訪れ、二眼レフを腰に構えてショーウィンドーに写る自身の姿を撮影した作品が載せられている。ロングコート姿で仁王立ちになったエド・ファン・デア・エルスケン(Ed van der Elsken,1925 –90)。その姿はまだ若く、痩せていて、初々しさが漂う。この作品集にはパリに巣くった仲間たちが数多く登場し、写真にあわせたショートストーリーのようなものが添えられている。まるでそれが連作短編のようになって、見るものの感情を作品世界に引きずり込んでいく。無軌道なパリ暮らしの若者たちを描いたこの作品は、小説やドラマよりはるかに刺激的だった。

主人公はアンヌと呼ばれる一人の若い女性。うつろな表情で、雨の降る窓辺にいる彼女のアップは印象的な一枚だ。思えばこの時代はすでにアートの中心がNYに移っていた。それでも誘蛾灯に誘われるようにしてパリに集まってきた若者たちは数多く、少しずつ少しずつ彼らが火に焼かれていく姿が、アンヌの姿に象徴されているようにも感じる。
(2004年執筆)

■関連本
セーヌ左岸の恋―エルスケン写真集
Love on the Left Bank
Ed Van Der Elsken: Jazz

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