2013/09/15

松江泰治の地図

ここ20年ほど「場所」をめぐる写真が、興味深い展開をみせている。スポットライトがあてられることもあり、静かに先行している場合もある。
それまでにあまり見られなかったひとつの特徴があるとすれば、「私」と「場所」の関係から逃れ、「場所」を主体化した作品が目立つことだ。しかも名前の知れた個性的な空間を被写体とするのではなく、アノニマスな空間を対象としている点に共通項がある。

2002年に木村伊兵衛賞を受賞した松江泰治 (Matsue Taiji,1963-) は、そんな場所を撮り続ける写真家のひとりだ。
東京大学地理学科で、人工衛星ランドサットのデジタル画像処理を研究したという異色の経歴。その写真作品はまさに地図のようで、そこには3次元空間を2次元化したという地図のもつ特質が現れている。

実際、松江の作品は世界各地の地表に広がる光景をモノクロ撮影したものばかり。まるで建築写真を撮るときのように、大判カメラによって晴天順光のもとにパンフォーカスで撮影されている。しかも、いやに白っぽい平板な印象を与えるのが特徴。ただしよく見ると、プリント技術の高さとあいまって、その画面はじつに細密で、質感を湛えたものであることがわかる。

かつてアンセル・アダムスをひとつの頂点とする風景写真は、光と影による豊かなコントラストによって美しさを競ったが、松江はこれに背を向けている。のっぺりとした空間は非日常的で、人間の存在を排除しているかのようだ。
個展『CC gazetteer』では、均質化が凄まじいまでの勢いで進む都市を被写体としている。克明に写しされたさまざまな都市の表面は、平板な模様のとなっているのだが、それは人工化への批判というようなものではない。もっと鉱物めいたイメージ。まるで砂に帰っていくというような。
そこでは、いったんは物質レベルにまで還元された都市空間が、ふたたびなんらかの意味を持った「場所」として立ち現れている。主観の投影はなく、場所が新しい相貌のもとに写しだされている。そこになにかフェティッシュな匂いをかぎとるのは、私だけではないでだろう。

ちなみにgazetteerとは地名辞典を意味し、各作品のタイトルとして付されたアルファベットの3文字は、航空業界で用いられるシティーコードです。(050314)

■写真集
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