2013/05/12

ソフィ・カルの奔放さ (上)

ソフィ・カル(Sophie Calle, 1953-)の著作『本当の話』は、日本語版が1999年秋に出版されている。当時は名前も知らなかったが書店で見てすぐに買った。アメリカ的ロードムービーをヨーロッパで、しかも女性の視点で展開するとこんなにも真新しいものが生まれるのかと思った。その世界は恋愛譚であり、探偵物語であり、偏執的酔狂、あるいは現代の『ナジャ』かもしれなかった。

ソフィ・カルの手法は、リアルタイムで語られるドキュメンタリー風の物語を、テクストと写真で切り取るものだ。『本当の話』も、見知らぬ男をパリからヴェネツィアまで尾行するという展開だ。テクストに混じって、盗み撮りのようなモノクロ写真が挿入される。
彼女自身は「私は写真家ではありませんし、写真にそれほど関心があるわけでもありません。かといって、作家でもありません」と語っている。たしかに職業的な作家や写真家でないという感覚は、その作品からもわかるような気がする。しかし、テクストに写真を組み合わせることで、不思議な化学反応が起こるというのは充分に確信していたのだろう。

テクストはつねに事実を淡々と語るある種の記録のように始まる。
1984年、私は日本に三ヶ月間滞在できる奨学金を得た。1025日に出発した時は、この日が九十二日間のカウントダウンの始まりになるとは思いもよらなかった」
インスタレーションとして発表された作品『限局性激痛』は、こんなテクストによって始まる。日本での滞在記が、失恋という出来事を軸に語られる。このいかにも少女趣味な展開が、不思議な魅力をたたえ、ともすれば哲学的な様相さえ備えるのは、なににもまして彼女のたぐいまれな構成力とそのプレゼンテーション能力の高さゆえだ。同時に、ひりひりと肌を刺すようなその神経にある。 (つづく)

■関連本

    

0 件のコメント:

コメントを投稿