2012/03/10

ダイアン・アーバスの神経 1/3

港に近い小さな、薄暗いバーには、25年近く前に死んだジョプリン(Janis Joplin, 1943-70) の歌う『summertime』がかかっていて、壁にはいくつかのポートレイト写真が飾られていた。もう20年以上前のことだ。写真に目をやると、それらはダイアン・アーバス (Diane Arbus, 1923-71) が撮ったフリークスで、だれもがしっかりとレンズに目を向けてフレームのなかに収まっていた。かなりの痛々しさを感じさせながら。

アーバスはジョプリンよりもちょうど20歳年上だったが、死んだのはジャニスが1970年の10月、アーバスは翌年の6月である。麻薬の過剰摂取で死んだジャニスと、大量のバルビツル酸塩(睡眠薬) を飲み、自ら手首を切って命を絶ったアーバス。このふたりが接触したという話はないが、過激な60年代を疾走しながら、その時代を生き抜いていくにはあまりに繊細すぎる神経の持ち主であったという点で、ふたりには共通項があった。

アーバスといえば、性倒錯者や精神病者、巨人、小人などを日常生活のなかで捉えたポートレイトが頭に浮かぶ。あるいはヌーディスト、シャム双生児、覆面舞踏会の参加者、公園に集った人たちといった普通の人間のなかに潜む“奇妙なもの”に目を向けて、それを撮影したことで知らる。

二眼レフによる四角い画面で、真正面からストロボをたき、まるで冷酷に彼らの内面を暴きたてようとでもするかのようにシャッターを切っている。彼女の作品にアウグスト・ザンダー (August Sander ,1876-1964) の影響も見る声もある。しかし、いくらか屈折を感じるその視点は、20代の半ば頃に彼女が直接学んだ女性写真家リゼット・モデル (Lisette Model, 1901-83) に近いかもしれない。 (つづく)

■ダイアン・アーバス写真集


      

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