2012/01/09

風景写真の変容 2/2 :デジタル・キッチン


1997年の『ランド・オブ・パラドックス』展に、小林のりお (Kobayashi Norio,1952-) は郊外住宅地を撮影した写真を出品した。1952年に秋田県大館市で生まれた小林は、高校時代に東京の小田急沿線百合ヶ丘に住み、変わり行く風景に興味をもったという。その後、東京歯科大に入学するが中退。東京綜合写真専門学校で写真を学び、92年出版の『FIRST LIGHT』で木村伊兵衛写真賞を受賞した。現在は東京西郊のあきる野市に住み、一貫して郊外の風景を撮り続けている。

被写体となっているのは造成中のニュータウンに建設される一戸建ての家、そのカラフルな屋根、青々と澄んだ空・・・・・・まるでカタログのように明るく、美しいが、同時にそれらは虚構の世界のようでもあります。
しかし、小林は郊外空間やそこの住人を批判しているわけではない。自分自身が暮らしてきたその郊外空間の変容を記録し、判断は見る者に委ねている。

興味深いのは、郊外を撮り続ける過程で、小林の関心が移り変わっていくことだ。
2002年に東京国立近代美術館で開かれた写真展『写真の現在2 サイト――場所と光景』では、8人の写真家の作品が展示された。小林はデジタルカメラで撮影し、自らのウェブサイトで公開している『デジタル・キッチン』と題する写真群を出品した。
そこではキッチンという場所で展開される食事の光景が、窓から差しこむ明るい光のなかで繰り返し映しだされる。雑然とした日常。しかし、キッチンという閉じられた場所でおこなわれる単調な食事の風景は、それを繰り返し目にすることで不思議な新鮮さをたたえ始める。
日々、瞬間瞬間に生まれては消えてゆく風景、そのはかなさの感覚のなかに、見る者はあらためて新鮮さを発見することになる。

小林はデジタルカメラとコンピュータを媒介として、この日常的な風景に写真的出来事を見いだした。それは郊外という場所の発見だった。小林のいう<はかなさの獲得>という新しい表現のかたちだ。
単に郊外地の風景に興味を覚えて撮るだけではなく、小林の撮影という行為はどこか内在的な孤独を感じさせる。その匂いをとどめながら、しかし、そこに留まることをせず、撮影された画像には不思議な明るさが漂っている。浮遊しているようでいて、どこか存在に根ざしたもの。それは私たちが生きる現実世界に平行して存在する、もうひとつの空間のようなものを感じさる。 (了)

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