2011/10/19

児玉姫子の肖像写真


児玉姫子の、写真家としてスタートはけっして早くはない。経歴をみれば1955年に秋田に生まれ、プロカメラマンとして仕事を始めたのは93年のこと。すでに38歳という年齢に達していた。
Passersby 静かな肖像』はその児玉が、2000年から2004年にかけて青山、表参道を中心に、東京の街で出会った人々を撮影したモノクロのポートレイト作品集だ。
児玉は「気配」ということを書いている。気配のある人をさっとスナップして、それらを作品集にまとめあげたというわけだ。たしかに個性的な被写体からは、それぞれに特有の気配が漂ってくる。ところが、全体を通してみると個々の気配以上に、浮遊感とでもいうべき正体不明のものが作品を包んでいる。ふと気づくのは、たとえレンズを見ている被写体であっても、どういうわけかその視線が交わってこない不思議さだ。どこか視線が宙に浮いている。

たとえば牛腸茂雄は1971年、友人の関口正夫との共著で初の写真集『日々』を自費出版した。
そこに登場する人物たちは、児玉の撮った肖像どころか、ほとんどが撮影者である牛腸の存在すら気づかないうちに写真を撮られている。その6年後に出版された写真集『SELF AND OTHER』に比べれば、あきらかに自己と被写体の距離が定まっていない不安定な感じある。完成度からすれば、あきらかに後者に比べて見劣りがする処女作だが、そこにはなんとも捨て難い浮遊感がある。それは微熱に冒されているときの奇妙な心地よさに似ていないではない。

児玉姫子の『Passersby 静かな肖像』にも、過程であるがゆえの、その愉悦が感じられる。

服飾専門学校卒業、婦人服デザイナーとして大手アパレルメーカー勤務からスポーツウェアーの商品企画を経て1993年、編集プロダクションでフリーランスの写真家として、雑誌を中心としたパブリッシングの世界で写真を撮り始める。
2000
JPS入会、この年より主にモノクロを中心とした写真の作品制作を始める。

 

0 件のコメント:

コメントを投稿