2011/09/09

ロベール・ドアノーのパリ郊外


『市役所前のキッス』というあざとさが目につく写真のために、ロベール・ドアノー(Robert Doisneau,1912-94) は誤解を受けている。ドアノーの大衆性を表面的にとらえてしまうと、その写真を見誤ることになる。比較文化論の今橋映子は著書『<パリ写真>の世紀』のなかで、ドアノーの好んだ言葉が「不服従」(desobeissance)であると書いていた。「この信念こそが、ドアノーの精神を支えていた」と。
パリ郊外の町ジャンティイに生まれたドアノーは、長じて写真を職業とするようになってからも、広告・ファッション写真には違和感を覚えていた。写真家ロベール・ジロー(Robert Giraud) に導かれ、夜のパリをめぐってシャッターを切るのだが、体質的にドアノーがもっていたのは街の下層階級の世界とは異なるものだった。ドアノーの本質はやはり郊外という空間にあったのだろう。
ドアノーは1949年に『パリ郊外』を刊行していて、これを見ると郊外空間やそこで生きる人々の姿を映した写真群は、肩の力が抜けて、自然な構え方で対象を捉えている。見ていて安定感がると同時に、画面から親和力のようなものが漂ってきて、こちらはおそらくドアノー自身がもっていたものではないだろうか。
この本には異端の作家ブレーズ・サンドラール(Blaise Cendrars,1887-1961)がドアノーの写真に惚れこんで、50ページにもおよぶ文章を寄せている。これが写真に比べて、じつに重苦しく暗いものだ。逆にいえば、そういうものを書かせる力が、ドアノーの写真のなかにあるということだろう。

■関連本

0 件のコメント:

コメントを投稿