2011/09/30

神谷俊美と都市の幽霊


20世紀前半のチェコは、陰影をもった独自の前衛写真を残している。そのなかにあって、ヨゼフ・スデック(Josef Sudek,1896-1976)という写真家の作品は、静かなノスタルジーに満ちている。神谷俊美 (Kamiya Toshimi,1946-) はこのスデックに大きな影響を受けたという。

たしかに神谷の写真もまた、霧の立ちこめたような早朝の都市の姿を、ときに木々、橋、建物といったものを切り取ることで、象徴的に浮かび上がらせている。それは時間が静止した静謐な風景で、そこには墨絵のような枯淡の味わいもある。


神谷はウィーンへ旅立ったのち、帰国して東京という都市を撮り続けてきた。それはかつてチェコの写真家たちが見たプラハとは違っているはずだが、神谷は目のまえを物凄いスピードで流れゆく空間の変容でなく、静止した時を東京に追い求めていく。まるで、ブルトンのなかのナジャのように。
裸体を撮影した作品もあのだが、それもまた一つの柔らかな物体のようにしてその場に溶けこみ、人体というよりむしろ存在のあり方を示しているかのようだ。
神谷にはまた、『山海図』というシリーズがあります。これは中国上代に記された祈祷書「山海経」をさすもので、それを作品のタイトルとした背景には、やはり時間の彼方でも朦朧として立ち昇り、そこに揺らめいている霧の存在を感じているからなのだろう。まさに彼の撮る写真は、都市の亡霊であり、土地の精霊のようなものかもしれない。
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