2011/09/27

柳沢信の「場」 2


柳沢信は1936年東京・向島生まれ。江戸っ子である。東京写真短大を卒業後、58年にミノルタのPR誌「ロッコール」に『題名のない青春』を発表しデビュー。戦後派である。7ページに渡って掲載されたこの作品は、横浜の波止場で友人を撮影したものだ。


時代なのだろうか、アメリカへの憧憬に満ちた青春のスナップといった面持ちだ。ウジェーヌ・アジェやロバート・フランクに影響を受けたようで、静謐な眼差しと瞬間を切り取り怜悧さが、やはりその写真にも宿っているように感じられる。61年から結核で2年間の療養生活を送り、67年「二つの町の対話」「竜飛」により日本写真批評家協会新人賞を受賞した。

年齢とともに超広角よりやや長くなって広角が増えているようにも感じる。しかし、飾りけのない視線はそのままだ。
93年に撮ったイタリアでの写真を見ていると、なにげない街角や広場、郊外の風景が移されている。ところが、写っている人間が一瞬を切り取られたまま静止している。あたりまえなのだが、その静止が妙に気になって仕方がなかった。巨大で精巧な書割と、そこに配置された精緻なつくりの人形でも見ているように感じられたのだ。それゆえにどこかユーモアの欠片がある。ユーモアというより、生きるものの悲哀、滑稽さとでもいえばいいか。

のちに知ったことがある。この93年のイタリア旅行から帰国した柳沢は、喉頭癌と食道癌が見つかり手術を受けた。それによって声を失った。それどころか、息を止めることができなくなり、シャッターを切れなくたったのだ。イタリアでの写真に感じたものとの因果関係はわからない。ただ、不思議なものをあの写真群には感じた。
20086月逝去、享年71。喉頭癌だった。 (了)



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