2011/09/26

柳沢信の「場」 1

写真家・柳沢信 (Yanagisaw Shin,1936-2008) の、奇を衒わない自然な眼差しに惹かれる。
この寡作な作家の、それでもかれこれ40年にわたる作品のなかで、とりわけ旅の途上で撮影された風景写真に眼が留まる。そういう写真を撮って人の気を惹きつけることができるのは、ともすれば装飾的になりがちな表現者の過剰な創作欲が、ここではさっぱりと排除されているからだろう。


旅先の土地のことなんて、ちょっと訪れただけの者になんてわかりはしない。そこで風景に対峙するのは、自身の周りにじゃらじゃらと纏わりついた装飾を削ぎ落とし、素っ裸になった眼球あるのみ。写真集『都市の軌跡』(1979)などを見ていると、そうした姿勢がよく伝わってくる。

柳沢の多用している、おそらくは21mmという超広角レンズが、ある種その場の状況というものを、気配ごと伝えてくれる。その画角の広さは、必然的に客観性を要求し、写真家もそれを承知でこのレンズを選んだはずだ。

柳沢は「場所」を撮りながら、「場」を感じさせる写真家だ。たとえばそれぞれ「場所」がその土地固有の、つまりヴァナキュラーな歴史を宿し、連綿とつながっているとするならば、一方の「場」はそうした歴史性とは手を切り、断絶した、そのときだけの一回性のものだ。そこにいて共有され、しばらくのちに消失してしまうものとでもいえばいい。 (つづく)

■関連本


  


0 件のコメント:

コメントを投稿