2011/08/31

安井仲治の「壁」 3


安井はこの作品に寄せて、本来は縁のないはずの人と猿が、また見る人と見られる人が、ひとつにつながっている。そうやって生活している、という意味のことを書き記している。「目に見えぬ何か大きな糸ででも結ばれてゐる」と。そのすがたが、どこか悲しげで、それでいて温かい。おそらくそれが安井の人間観であり、世界観であったのだろう。


安井は30代半ばにして逝くまで、家業の安井洋紙店に勤め、温厚で裕福なビジネスマンとしての顔を保ち続けた。その背景がなくては、安井の、ある種奔放な創作活動は維持できなかった。それを知っていることもまた、安井の悲しみであり温もりだったのかもしれない。

晩年の作品に「サーカス(山根曲馬団)」を撮ったシリーズがある。そこでも見るものと見られるものの、不思議なつながりと断絶を感じさせる作品が多い。なにかしら深い井戸の底を見せつけられるような写真だ。絶作となった「熊谷守一氏像」をはじめ、最晩年の作品群にはある種の緊張のなかに静けさが漂う。世界との距離を見つめ、その埋めようのない果てしなさのなかで、自己の完成を求め続けた孤高の姿がそこに映しだされている。 (了)

■関連本 
安井仲治写真作品集(日本写真史の至宝)
日本の写真家〈9〉安井仲治
デジャ=ヴュ (第12号) 安井仲治と1930年代

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