2010/08/14

渡辺兼人、日常の漂白


漂白の匂いがする写真家だ。80年に金井美恵子との共著「既視の街」が出版。翌年、ニコンサロンで同名の写真展を開き、木村伊兵衛写真賞を受賞する。渡辺兼人(Watanabe Kanento,1947-)、34歳のときである。


渡辺はミノルタオートコードを首からさげ、行く先も決めず、1日30kmもの距離を歩くという話を聞いたことがある。これが何日も続く。気になった場所があれば、足を止めてシャッターを切る。日常が漂白でとなり、徘徊の精神が日常に染みてくる。そういう行動をとれば、時間が後退するようなあの不思議な気配が写真に生まれるのだろうか。6×6の正方形のフレームに切り取られた風景に、現実であって現実でないなにかが漂う。

たとえば人が住む家でありながら不在を感じさせる空間、繁茂すればするほど死滅の気配を濃くする植物、街角にふと出現したかのような巨大な
向日葵、静かな川の水面。どれもが日常の風景でありながら、見た瞬間に時間軸がずれたような感覚に襲われる。


生活者でありながら、漂泊者である作者の視線がそうさせるのだろう。自己と他者との間に楔を打ちながら、それでいて絶えず関係性を模索し続ける境目の感覚。それが時代の空気と溶けあい、画像が意識のなかに染みこんでくる。

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